瞼の上のキスはいつも優しい。

王は二人きりの時は私に非常に優しく接する。それはもう、触れる手の柔らかさと言えば、既に割れた硝子片を拾い上げる時のようで、その度に私は“全力の愛”を感じる。

髪をひと房、王の指に取られれば、その先で王は私の髪を弄んでは儚く微笑んでくださる。「時臣、好きだ」と決して人前では口にしない言葉を次から次に投げかけるものだから、私はいつも心臓が痛いのだ。
綺礼が見れば何と言うだろう。
きっと、「こいつは本当にあのギルガメッシュですか?」と問うに違いない。それもそうだ。出来の良い弟子の前では私達は完全に主従関係にある者同士で通っているのだから。

「王よ、私も王をお慕いしております」
「…そうか」

いつも通りに愛の言葉を返せば、王はまた誘惑するような顔で笑む。目を合わせ、王の方へ向き直れば、もう私の目には彼しか映らない。弱々しく丁重に手を取れば、王は甘く指を絡め返してくださる。恋仲の者同士がする、所謂“恋人つなぎ”が彼は大好きなのだ。

「その言葉に他意は無いな?」
「はい…。私が王を裏切るなどあってはなりません」
「それで良い…」

もう片方の手が私の頬に伸びれば、優しく撫ぜられる。こそばゆい、あぁ、愛おしい。
少しだけ彼の手に頬を寄せて身じろげば、王は目を細めた。その目に冷酷さはない。ただ一心に、愛しいものを見つめる目だ、と思った。
自分が偉大なる英雄王を満足し得る存在であることは、もちろんだが初めは信じられなかった。だが、二人きりの時にのみ私に寄せる眼差しは色恋に染まったそれにそっくりなのだ。妄信的で煽情的。この言葉がぴったりに似合う。
人間味の無い存在である王の色香は、もちろん人とはかけ離れているものの、情を通わせることに於いては人間とさほど変わらないのだ、と私は思った。

初めて王に抱き竦められた時に感じた温度は確かにそこにあったのだから。

「生きている」

素直に思った。
仮初の体といえども私の腰に回されたしなやかな手と耳に微かに当てられる心地よい息遣いはたまらなく愛おしいと感じたのだから。