その日、その瞬間、彼らの体を電流のようにナニカが流れていった。
 束縛には慣れているつもりでも、こればかりは破らずにはいられない背徳。手に持ったキャリーの取っ手がきゅっ、と軋む感覚を彼らは味わう。
 今回ばかりは少し違うのだ。後ろで今にも自分を見つめる恋人の眼差しは寂寥に溢れ返っているのだが…。
 ドアノブに手をかけると、ひと思いに開け放った。朝の光がまた、どきりと心臓を鳴らしたのがわかる。

 「いってきます」

 この日ばかりは誰もが笑顔で外出できなかった。

 「案外、予定してた集合時間より早く集まれたね」
 「…なんか一刻も早く出たかった」
 「私も一緒だ」

 空港の待合室で、彼らは数ヶ月ぶりの邂逅を果たした。