「暑い……」 気付けば本日三本目のアイスを口にしていた。 りんごのすっきりとした甘さが口中に広がると同時にとびきりの冷たさが頭にキンと響く。 こんな日でもいそいそと畑仕事やら馬当番、はたまた道場で手合わせに勤しむ刀剣男士のなんと強いことか。 かく…

「またあなたと言う人は!」 「まぁまぁ、いいじゃん」 「よくありません!」 広間中に長谷部の怒鳴り声が響く。 ぐでん、と畳の上に寝転がり、携帯ゲーム機を片手に持つ私の目の前で、へし切長谷部は相変わらず仁王立ちしている。 「ちょっと長谷部〜、今バ…

「あ〜?さにわ?」 「はい。審神者です」 世の中には私の知らない職業がごまんとある。ふとテレビの変わった企画を見れば、『まさかこんな職業まであったのか』なんて思ったこともあるけれど、まさか自分がその変わった職業に就く事になるとは誰が想像でき…

瞼の上のキスはいつも優しい。 王は二人きりの時は私に非常に優しく接する。それはもう、触れる手の柔らかさと言えば、既に割れた硝子片を拾い上げる時のようで、その度に私は“全力の愛”を感じる。 髪をひと房、王の指に取られれば、その先で王は私の髪を弄…

その日、その瞬間、彼らの体を電流のようにナニカが流れていった。 束縛には慣れているつもりでも、こればかりは破らずにはいられない背徳。手に持ったキャリーの取っ手がきゅっ、と軋む感覚を彼らは味わう。 今回ばかりは少し違うのだ。後ろで今にも自分を…

燃費が悪い 3

身体の治療が完了して以来、いそいそとホテルの一室を引き払ったケイネスは早々に俺を追い出した。聖杯戦争が中止にはなったがもう少しの間日本には滞在するらしく、単身赴任をする者向けのマンスリーマンションを借りるようだった。 そして、時を同じくして…

燃費が悪い 番外編

風が服をすり抜けていく感覚が気持ち悪い。 秋の夜は意外に冷えるのだ。こうもやすやすと服を剥がれては明日の体調を今からでも気にしてしまいそうになる。この行為の途中はいつも、わざと他の事を考えるようにしてきた。勿論、俺が責任を取らなければならな…

ドゥキドゥキ☆女子会(仮)のお忍び温泉旅行の巻(※ただし男子(真性)は除く)

事の発端はグループにて龍之介が言い放った他愛ない一言だった。 『今度、みんなで旅行行こうよ』 定期的に旅行の話は出るものの、今回の旅行の提案はあまりにも期間が短かった。何せ、前回いつもの一行で旅行に行ったのはつい先日、ほんの二ヶ月前のことだ…

燃費が悪い 2

目覚めると、一番に薬品の臭いが鼻を掠めた。 「うっ」と嗅ぎたくもない不快な香りがやけに鮮明に鼻腔を刺激する。ついこのまでは蟲のせいで五感すら失われ、そろそろ嗅覚まで潰れかけていたというのに。なのに、今こうしてはっきりと匂いを感じられることが俺…

燃費が悪い

ひょんなことから聖杯戦争が中止にな、早ひと月が経とうとしている。 常に気まぐれで、人ではその全てを測りきれない聖杯は、あんまりにもあっけなく、忽然と姿を消した。 教会はすぐさまに使い魔でくマスターとサーヴァント両人を協会に招致し、その事を説…

かみさまどうか

非日常とは存外ありふれたモノなのかも知れない。 実際、自分が今こうやって勤務するこの学園ですら世間一般では非日常の類に分類されるのだろう。魔法使い、ではない。あくまで魔術師。このポリシーはそうそう揺るがない。 そう考えると、自分も随分と歳を…

(笑)

高校二年になった春、両親の転勤で私は数度目の転校をすることになった。 やってきたのは、前の家からさほど遠くないところだった。両親は転勤が多い職種に従事する身なので、もちろんマンションや家は購入できない。車も買ったら買ったで次に転勤した際に、…

ぼくは14さい

十四歳になった。 僕に兄弟はいない。 両親もいない。 黒い家にひとりで住んでいる僕と幽霊のユリちゃん。ユリちゃんはとてもかわいいけど、幽霊なのだ。まるで雲みたいにふわふわ浮いていて 、纏うワンピースも卸したてのシーツみたいに白かった。雲みたい…

やがて来る変えられない結末 第1話

目を覚ましたとき、心地よい潮風が髪を撫でた。 明るい日の光が窓から私を射す。この光は朝の光だろうか。妙に心地よい。 そして思い出す。自分が崖から身を投げたことを。 あの時の感覚は何も覚えていない。人は身投げをした場合、風圧の関係で気を失ってし…

やがて来る変えられない結末 第0話

はじめはただの体質だと思っていた。 荒れた砂地で転んだときも、包丁で指の先を切ってしまったときも、人より何故か治りが早かった。 母が慌てて救急箱を持ってくるよりも先に、傷は消えていた。それも、跡形もなく、だ。 擦り剥けたはずの皮も、滲み出てい…

隣同士

隣同士が一番自然、なんてよく言ったものだと思う。 そりゃあ、僕とミスタは行動を共にしてきた時間が他の人と比べて多いのは確かだろう。 仕事、プライベート、それ以外にもミスタと過ごした時間は、日に日に増えてきている気がする。 彼自身も、僕の隣がも…

投資家レコーズ

夏だというのにこの部屋には冷房すら付いていない。 最新の技術が使われた馬鹿でかい屋敷だからか、異常に暑くなることはなく、断熱マットだとか、完璧な遮光カーテンやらが少しは効果を見せていた。 だが、先ほどまでの情事を終えた今、私の体は非常に火照…