「暑い……」

気付けば本日三本目のアイスを口にしていた。
りんごのすっきりとした甘さが口中に広がると同時にとびきりの冷たさが頭にキンと響く。

こんな日でもいそいそと畑仕事やら馬当番、はたまた道場で手合わせに勤しむ刀剣男士のなんと強いことか。
かく言う私は夏に入って直ぐに畑仕事を手伝っている矢先、うっかり熱中症に倒れた。
とうもろこし畑の真ん中でばたり、と倒れた私を三人掛かりで本丸まで運ばれたのはまだ記憶に新しい。

あぁ、とうもろこしで思い出した。
もうそろそろ畑番が帰ってくる。

夏は流石というべきか、苗を植えれば植えただけ育ち、買うよりも沢山実った。食べ盛りの男が四十余人生活する我が本丸では実りすぎた野菜も途端に消えてしまうのでそこら辺は気にしていない。
今日は奥の畑に行くと言っていたのでおそらく茄子とオクラが沢山やってくるだろう。
額に汗が伝う。それを私は気だるく拭う。

「でも茄子とオクラだけじゃ飯は食えんよ。飯は」

ぼそり、と一言。
他の季節よりも格段に食料の消費が早いのは当たり前だった。
毎日真っ白だったはずの肌を少しずつ小麦色にしながら仕事に挑む彼らが今日採れた分だけの茄子とオクラで満足するはずはない。
ましてや茄子とオクラだけで何を作ろうというのか。

「和え物……?いや、それお腹いっぱいにならない」

少しの間自問自答。
そしてここで思い出す。確か今朝米櫃の底が見えていた。

「やばいぞ、米。あの量じゃ昼と夜賄えない」

もって一食。
それくらいしか今我が家には米がなかった。今から注文するにも届くのは明日の早朝になろうか。不覚だった。

「どうしようか。パンじゃ絶対無理だし…」
「おや、またアイス食べてる」

頭上から声が掛かった。聞き慣れた声は私が手に持つ溶け掛けのアイスを見た途端、少しだけ鋭くなる。

光忠だ」
「さっきもオレンジ味食べてたのに、次はりんごかい」
「この暑さだ。ちょっとばかしは許して欲しいね」

振り返ればシャツの袖を捲くり、今にも畑に出ようとしているような身なりの光忠がそこにいた。下はジャージだが上はいつものシャツだったのでおそらく離れの隅に拓いた畑にでも行くのだろうか。

「そう言って、体冷やしても僕は知らないからね」
「この熱気でどう冷やせ、と」
「……はぁ」
「さっきの江雪みたい。もう一回」
「そこまで怒られたいのかい」

何気なく揶揄えば、ぽふり、と案の定頭を小突かれた。

「なにさなにさ」
「いや、巫山戯るのはかっこよくないな」
「ふん……で、今日のお昼どうする?お米足りない」
「え、ほんとかい?!そういうのは前もって言ってくれないと……」
「朝の残りと今お櫃にあるだけじゃ夜まで持たないし。まぁ今から注文かけるけどさぁ」

「あ〜」と頭を抱える光忠は眉間に皺を寄せた。同じタイミングで溜め息が溢れるあたり、少しばかり怒らせてしまったに違いない。

「歌仙くんなら今頃君の頭をスリッパあたりで叩いてると思ってくれよ」
「そりゃ痛てぇや」
「……反省してる?」
「次からは無くなったらちゃんと言う」
「無くなってからじゃ遅い!!」


次こそは小突く、どころではない一撃が頭にお見舞いされた。
食事にはとびきりうるさい男を怒らせてしまった、その罪は案外重かったようだ。


「……で、どうするんだい」
「……う、うどん」
「そんなに沢山ないよ」
「う、うぐぅ……」


すっかり呆れた光忠は、畑仕事どころではない、と私の横に座した。まだこの本丸が少人数だった頃は一食抜いたくらいでは何も無かったものの、こうも大所帯になった今では食事は必ず三食無ければ回転しなくなってしまう。

「ではパンでどうでしょう……」
「パンでうちの男共が満足するとでも?」
「思いませんな」
「ならどうするの」
「…そ、そうだ…そうめんがある。うちには膨大な量のそうめんが…!」
「…なんだって」

 かくして本日の昼食は決定したのだった。